R による酵素反応速度論的解析
ある酵素反応がミカエリス・メンテンの速度論に従うと仮定し、ミカエリス定数 Km や最大反応速度 Vmax を実験値から推測する事がよく行われます。古典的には、 Lineweaver-Burk plot (LB plot) 等が利用されてきました。しかし LB plot は、基質濃度が低くなるほど誤差が増幅される、Km 値等を算出する際に大きな外挿を要する、といった問題点が指摘されています。そのため LB plot に代わる様々な計算手法が提案されてきました。
本記事では、Two-parameter Michaelis-Menten model の適用による Km 値及び Vmax 値の推定例を仮想データを用いて示します。
Two-parameter Michaelis-Menten model は下記の通りです。
上式の d を Vmax 、 e を Km 、 x を [S] に置き換えて変形すれば、ミカエリス・メンテン式と等しい事が確認できます。
解析対象とする仮想データは下記の通りとします。 [S] は基質濃度、V は酵素反応速度 (初速度) です。
以下に与えられた仮想データの分析の一例を示します。drc パッケージの関数を用いて、観測値より上式のパラメータ d 及び e を推定する事で Vmax 、 Km を求めます。
install.packages("drc") #パッケージのインストール(初回のみ) S <- c(0.2, 0.5, 1.0, 2.0, 3.0) V <- c(0.015, 0.029, 0.038, 0.044, 0.048) library(drc) mm <- drm(V ~ S, fct = MM.2()) summary(mm)
次のような出力が得られます。
Model fitted: Michaelis-Menten (2 parms) Parameter estimates: Estimate Std. Error t-value p-value d:(Intercept) 0.0556745 0.0013655 40.771 3.247e-05 *** e:(Intercept) 0.4886506 0.0400870 12.190 0.001189 ** --- Signif. codes: 0 ‘***’ 0.001 ‘**’ 0.01 ‘*’ 0.05 ‘.’ 0.1 ‘ ’ 1 Residual standard error: 0.001000946 (3 degrees of freedom)
パラメータ d の推定値が 0.0556745 、 e の推定値が 0.4886506 となりました。これらが Vmax 及び Km となります。
得られたモデルの実験値に対する当てはまりの良さを視覚的に確認してみましょう。
plot(mm, log="", xlab="[S]", ylab="V",xlim=c(0, 4), ylim=c(0,0.06))
Km 、 Vmax 、 (1/2)Vmax を青色の破線で書き加えると、次のようになります。
plot(mm, log="", xlab="[S]", ylab="V",xlim=c(0, 4), ylim=c(0,0.06), ) Vmax <- mm$coefficients[1] Km <- mm$coefficients[2] abline(h=Vmax, col="blue",lty=2) segments(-1, Vmax/2, Km, Vmax/2, col="blue", lty=2) segments(Km, -1, Km, Vmax/2, col="blue", lty=2) mtext(text="Km", col="blue", side=1, line=1, at=Km)
横軸と平行な青線のうち、上の破線は Vmax 、下の破線は (1/2)Vmax に対応しています。 Km 値を表す縦の破線と (1/2)Vmax の破線が曲線上で交わっている事が確認できます。
本記事は以上です。何かの参考になれば幸いです。
[参考]
MM: Michaelis-Menten model in drc: Analysis of Dose-Response Curves
RPubs - Fitting a Michaelis-Menten model and drawing the results in R
Rで致死試験の用量応答曲線を描く - 環境質リスク管理研究室のブログ